ゴミの増殖

　新宿某所。
　当局によって再三撤去されるにもかかわらず、ゴミたちはどこからともなく集まってくる。まるで路面に書かれた矢印に導かれるように。
　また一斉撤去が敢行されたのを機に、ゴミどもの動きを観察してみた。

2001年10月10日
　ゴミが撤去され、きれいになった坂道。
2001年11月6日
　一番手前の街路樹の根本に注目。最初のゴミが出現。きれいになってからひと月ともたなかったことになる。物はベッドのスプリングを折り畳んだもの。また、道路右側に自転車が出現。この時点では近所の人が置いているのか、乗り捨てられたのか不明。
2001年11月30日
　最初のゴミから2週間。変化が現れる。
　ベッドのスプリングは矢印のそばに移され、スプリングのあった場所は2つの白いゴミ袋に乗っ取られる。
2001年12月9日
　10日ほど経ち、ゴミの増殖に勢いがつく。
　なぜかスプリングはどこかに消え、代わりに緑の1升瓶のケースが出現。ゴミ袋の手前の黒い固まりはガスストーブ。
　自転車は全く同じ位置にあるが、スクーターの方は駐輪角度が変わっている。
2001年12月14日
　緑の1升瓶のケースが消える。矢印のちょうど先端部分に、電化製品が現れる。
2001年12月24日
　クリスマス・イヴも何のその。
　スクーターと自転車の上に角材が出現。1間ものが3本。歩道のところには棚が登場。電化製品が消え、袋物がさらに増えている。
2001年12月26日
　自転車が倒れ、角材が路上に投げ出されている。
　ゴミの山にはベッドの台板が現れ、代わりに歩道にあった棚が消えている。
2001年12月28日
　角材が忽然と消え、自転車が立っている。画像に複数登場する自転車のうち、これだけは乗り捨てられた物だと思っていたが、実は持ち主がいるのだろうか？
2001年12月31日
　ベッドの台板が消滅。ゴミの山の一番手前にオーディオ・スピーカーのように見えるのは、12月9日に登場したガスストーブ。なぜか背面から部品がはずされ、丸い穴があいている。
　問題の自転車は、また倒れている。
　ついにこのまま年越し。
2002年1月3日
　ストーブの後方にテレビが現れる。また、ゴミの山に乗っかっている青い物体は、折り畳みベッド。
2002年1月8日
　突如壁側に、大量の木材が出現。1度消えた角材が、合板を引き連れて帰ってきた。一番坂の上に角材、小さめの合板が10枚ばかり、角材を杭にしたのが30本ばかり、そして大きな合板がやはり10枚ほど。角材が同じものかどうかも含め、わけがわからない。
　また、歩道の方にはマットレスと、ベッドに続き大物が登場。しかしこの2つ、明らかにペアではない。
2002年1月11日
　木材はやはり大工が置いていたものだった。すべて運び去られ、きれいになる。しかし仮の資材置き場として使ったにせよ、あまりに不用心。

2002年1月16日
　白いマットレスがなくなる。出現して1週間。7日夜には雨が降り、びしょ濡れになったはずなのだが、誰かが引き取ったものか？　また、奥の方に小さく縛られたマットが出現したことから、トレードの可能性も？　折り畳みベッドはそのまま続投。
2002年1月19日
　画像では見づらいが、中央手前の黒い物体（後ろ向きのテレビ）の後ろに白いテレビが登場。夜中には、黒いテレビの上に載せられ、何となく茶の間然としていたのだが、朝になると下におろされていた。
　自転車とバイクは現れ、倒れ、また消える。
2002年1月21日
　白いテレビが消滅。昨夜、雨が降り出す前に消えていた。また、茶色い段ボール（三菱テレビ）がゴミの山から歩道に飛び出し、山の中に白い段ボール(IBMパソコン)が出現する。ちなみにどちらも空。
2002年1月31日
　昨夜遅く、ゴミの山に半壊した原付が投棄されているのを発見。このところマイナーチェンジばかりだったので、撮影もしていなかったが、これはチャンス。定位置からのフラッシュ撮影では鮮明に写らないと思い、翌日に持ち越すこととして、就寝した。
　昼近くまで寝ほうけて、さあ写真と現場に行って驚いた。自転車だけを残し、ゴミが跡形もなく片づけられている!　まさかの急展開。ゴミ撤去の予告は全くされていなかった。駆け込み投棄を懸念しての抜き打ち撤去だとすれば、あの幻バイクはまさに滑り込み。最後の最後に増えたゴミを撮影し損ねたとは!　最初のゴミと最後のゴミがそろって、初めて観測が完結するのではなかったか?　4ヶ月にも渡って観測を続けながら、全く間抜けとしかいいようがない。
　こうしてゴミの増殖は当局によって終止符が打たれ、定点観測は未完に終わった。しかしこれは真の終結ではなく、新たなステージの始まりにすぎないだろう。人知れずひっそり現れたゴミが、最初はゆっくりと、やがては爆発的に増殖する日が訪れるのも、そんなに遠いことではない。

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