目覚ましが鳴るより早く、わたしは目がさめた。すっかり身支度をした上で、佐々木さんを起こした。最初は寝ぼけていたが、冷たい水を飲ませると、はっとわたしに気づいた。
「あ、あれ? どうしたの?」
「もう、忘れちゃったんですか? 遅くなったから、ホテルに泊まったんじゃない」
 え? と布団の中を探って全裸なことに気づくと、佐々木さんはさらにどぎまぎした。
「早く服を着て下さいよ」
 そういってわたしは背を向けたが、鏡越しに彼のあたふたする様子を眺めていた。いざネクタイの段になって、彼がどうしてもねじらせてしまうので、わたしが手を貸しながら、
「なんにもなかったですよ。ただ泊まっただけ。すぐに高鼾で、わたし、眠れなかった」
「ほんと? 俺、おいたしなかった?」
 「おいた」なんて言葉を使うので、わたしは思わず吹き出してしまった。

 次に一緒に飲んだ時、佐々木さんは妙にペースを押さえているようだった。逆にわたしはペースをあげ、終電の頃にはかなり酔っぱらっていた。終電組と一緒に帰ろうとする佐々木さんを、わたしは無理矢理引き留めた。
「佐々木さんには貸しがあるはずよ」
 そう言ったことは覚えているが、後のことは覚えていない。
 次の記憶はホテルの一室で、佐々木さんは身支度をしていた。
「やっと起きた?」と、水を一杯くれたが、到底足らなかった。もう一杯飲み干し、あまりの頭痛に枕に突っ伏した。
「頭痛いの? 当たり前だよ、あんなに飲んだら」
「会社行かなきゃ」
「無理だよ。今日は休んだら?」
 置きあがろうとして、わたしは全裸であることに気づいた。はっとして布団で胸を隠すと、
「部屋に入ったら、そのままバタン、キュー。でも、何もしてないから」
「嘘?」
「ほんとだよ。ぐでんぐでんの女としたって、しょうがないじゃん」
 ぐでんぐでんの女とでもしたいのが男かと思っていた。そのことを深く考える間もなく、
「どうする? もう少し休んでいく? だったら、お金払って行くけど」
「わたしも出る」
「そう。じゃあ、タクシー拾ってやるから、今日は帰った方がいいよ。会社にはうまく言っとくから」
 タクシーに乗せられての別れ際、「お金ある?」と、千円札を何枚か手渡された。

 あれほどひどい二日酔いはなかった。結局翌日も休み、その週末の飲み会は参加する気にはなれなかった。酒の臭いさえ嫌で、まっすぐ家に直行の日が続いた。あんな醜態を見せたからには、佐々木さんも無理には誘ってこなかった。
 その月末、佐々木さんの送迎会があった。彼は田舎の見合いがとんとん拍子に進み、それならばと、結婚前に土建屋に勤めることになった。結婚即役員という布石だった。
 送迎会には出たが、もう既に介抱同盟は存在せず、佐々木さんも終電組の一員だった。その夜、わたしは課長以下三名をタクシーで送り、いっこうに酔わぬまま、明かりのない自宅へと帰っていった。
 自分が妊娠していることに気づいたのは、その一ヶ月後だった。

おわり
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